遺伝子組換え食品に対しては、”詳しいことはよく分からないけど危険そう”というイメージを持っている人が多いと思います。
では、遺伝子組換え食品とは一体どのような食品で何が危険なのでしょうか。
加えて、現在の日本における表示義務の問題点などについて考えてみたいと思います。
1.遺伝子組換え食品とは
遺伝子組換え食品とは、生物の細胞から有能な性質をもつ遺伝子を作物などに組み込み、新しい性質を持たせることです。
英語では”Genetic Modification”と言い、これを略してGM食品とも呼ばれています。 現在、北米を中心に栽培が拡大しています。
遺伝子を組換える目的は、作物に除草剤耐性や害虫抵抗性などの機能を持たせることで、生産性を向上させ収穫量を増やすことにあります。
遺伝子組換え食品の代表的な作物として、次のようなものがあります。
<除草剤耐性>
大豆、トウモロコシ、ナタネ、てんさい(砂糖大根)
<害虫抵抗性>
トウモロコシ、ジャガイモ、綿
上記のものがあり、日本には1996年から輸入されています。
日本においては、遺伝子組換え食品は商業目的での栽培はされていません。
2.遺伝子組換え食品の危険性
①発がん性リスク
遺伝子組換えトウモロコシをマウスに与え続けたところ、発がんリスクが上昇しました。
また、乳がんや脳下垂体異常、肝障害になった事例も報告されています。
②アレルギー疾患の増大
遺伝子組換えによって、それぞれの作物が持っているアレルギー物質を減らすことができます。
しかし、それに伴って新しいアレルギー物質が作り出される可能性が指摘されています。
③妊婦や胎児への影響
遺伝子組換え食品によって、殺虫性のあるたんぱく質などの有毒成分が生成されます。
通常の人であれば、これらの成分は腸で破壊され体外に排出されるので無害とされています。
しかし、妊婦からは93%、胎児からは80%の有毒成分が検出されたそうです。
④生態系への影響
遺伝子組換えをした作物の花粉により、雑草にも除草剤耐性がついてしまう可能性があります。
⑤土壌の有機成分の破壊
遺伝子組換え食品をエサにして育った家畜のフンを肥料として使用すると、本来の土壌成分を破壊してしまう可能性があります。
3.遺伝子組換え食品のメリット
デメリットや危険性ばかりがクローズアップされる遺伝子組み換え食品ですが、当然のことがながらメリットもあります。
①農薬の使用量を減らせる
除草剤耐性や害虫抵抗性を持たせることで、農薬の使用量や使用回数を減らせます。
②生物の種類に関係なく品種改良の材料にできる
人工的に遺伝子を組み換えるため、通常ではありえない組み合わせの遺伝子を組み合わせることができます。
③食品の風味や弱点などを改善できる
味の良い品種を組み合わせて風味をよくすることができます。 また、乾燥に強い遺伝子を組み合わせることで乾燥に強い品種に改良できます。
乾燥に強い品種に改良すれば、農作物の栽培に不向きとされるアフリカなどでも栽培が可能となり、食糧難を救うことができるのです。
④栄養価の高い食品を作ることができる
最近ではビタミンAを強化した米や花粉症緩和米などが開発されています。
⑤コスト削減
農作業の負担が軽くなり、生産コストを下げることができます。
⑥食品原材料が安定して供給できる
除草剤や害虫に対する耐性を持たせることで、農作物を安定して収穫することができます。
これにより、販売価格の安定も期待できます。
5.品種改良との違い
遺伝子組換えと混同しがちなものとして、品種改良があると思います。
両者がどのように違うか、知っておきましょう。
遺伝子組換え食品は人工的にDNAの書き換えを行ないます。
そのため、種類に関係なくさまざまな生物を品種改良の材料にできます。 成功率も高いそうです。
それに対して品種改良は、自然交配による突然変異によって新種を発見する方法です。
自然交配とは、遺伝子に人工的に手を加えないで受粉、受精させることをいいます。 そのため、成功率が低く改良するのに時間がかかります。
6.遺伝子組換え食品の表示問題
2001年4月までは遺伝子組換え食品の表示義務がなかったため、どの食品に遺伝子組換え作物が使われているのか、消費者には分かりませんでした。
しかし、上記のような遺伝子組換え食品の危険性が認知されると、消費者から安全性について疑問の声が上がり始めました。
そこで、農林水産省は2001年4月に日本農林規格(JAS)を改正し、遺伝子組換え農産物およびそれを原料にした食品に表示を義務付けました。
しかし、この表示義務には不十分な点が多く、消費者の食の安全に対する要求に応えられていないとの批判が上がっています。 一体どのような問題があるのか、見ていきましょう。
問題点①
主な原材料が遺伝子組換え食品のものには、表示義務があります。
「主な原材料」とは、重量に占める割合が上位3位以内、なおかつ重量に占める割合が5%以上のものを指します。
この定義から外れるもの、つまり、重量に占める割合が4位以下、または重量に占める割合が5%未満であれば、表示義務はありません。
問題点②
組換えられたDNAやそれによって生成されたたんぱく質が残っていないものには表示義務がありません。
例えば、醤油や食用油脂などは加工の工程で遺伝子組換えで生じたDNAやたんぱく質が分解されてなくなってしまいます。 そのため、表示義務の対象にならないのです。
問題点③
5%以下の意図せぬ混入には表示義務がありません。
例えば、大豆やとうもろこしを輸送する際、前回運んだ遺伝子組換え食品が混ざってしまっていたとします。 そうした場合でも、全体の重量の5%以下であれば表示義務がないのです。
食品の成分表示に「遺伝子組み換えでない」という表示はよく見ると思いますが、「遺伝子組み換え」という表示は見たことがありませんよね?
大量に輸入されているはずなのにどこで使われているのかという疑問は、上記のような表示義務の抜け穴を知れば、ああなるほどと思うのではないでしょうか。
食品安全に厳しいEUでは、遺伝子組み換えがされた成分に関してはすべて表示しなくてはなりません。 意図せぬ混入の割合も、0.9%以下という厳しい基準が適用されています。
たぶんに政治的な意図も感じるこの表示義務問題。 将来、リスクが顕在化しないことを祈るばかりです。
最後に
遺伝子組換えによって栄養価の高い食品ができたり、乾燥に強い品種ができるのは大きなメリットです。
一方で、懸念されているリスクが顕在化した場合の恐ろしさは看過できません。
せめて表示義務を厳格化して、遺伝子組み換え食品を摂りたくない人が不用意に口にしない環境が整備されるべきだと思います。
最近、食の安全に関心を持つ人が増えているので、国は消費者の声に真剣に耳を傾けてほしいですね。